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吉岡監督と天外伺朗さんの対談トークショー

吉岡敏朗監督『麻てらす~よりひめ岩戸開き物語』上映後、吉岡監督と天外伺朗さんの対談トークショーがおこなわれました。ごく一部をご紹介します。
(2017年8月3日、東京ウィメンズプラザ)

 

★吉岡敏朗さん
1956年島根県生まれ。日本大学芸術学部で映画演出を学ぶ。卒業後は映画、テレビ番組、ドキュメンタリー、CM、PRビデオ、博物館用映像等、様々な映像作品を監督・製作する。「つ・む・ぐ ~織人は風の道をゆく~」「笑顔の道しるべ-平田大一と福島の子どもたち―」など。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天外:タイトル「麻てらす」には、どんな思いを込められたのですか。そして、吉岡さんが麻に注目されたのはなぜでしょう。

吉岡:「てらす」という表現を使ったのは、麻の文化と利用法に注目し、いまの時代を照らすことで、次の時代を照らせるのでは、という思いからです。 前作「つ・む・ぐ」は、綿と麻という二つの植物をとりあげ、服作りを通して次の時代を考えていくドキュメンタリーでした。タイでの撮影が多かったのですが、綿の場合は、栽培の過程を撮影するのは簡単でした。ところが、麻の栽培は制限されていて、タイでもラオスでも栽培風景を撮ることができなかったのです。
 日本にも大麻取締法があるため、許可を受けた人以外大麻を栽培することはできません。
とはいえ、日本では伝統的に、大麻(以降「麻と表記」)はとても重要な植物です。米が日本に入ってきたよりずっと前から麻は栽培され、縄文土器の縄目にも使われて来たと言われています。

 糸や縄や布に加工されて暮らしに密接にかかわり、しめ縄や鈴縄などご神事にもたいせつに使われていた植物が、なぜ禁止されたのでしょうか。そんな疑問が出発点で、麻について調べ始めました。
 そして、ぼくは映像作家なので、大麻取締法の是非を問うというより、まずは麻について事実を知り、撮影し、そしてそれをお伝えするとから始めたいと思いました。

天外:麻の実は七味唐辛子の中にも入っていて、食べることもできます。医療麻薬としての用途もあり、活発な議論がありますね。
 去年、医療大麻裁判の山本正光さんが亡くなりました。山本さんはフランス料理のシェフで、肝臓がんで「余命6か月」の宣告を受けました。効果のなかった抗癌剤に代わって、自宅で大麻を栽培・使用して治療したところ、体調がよくなり、医者の宣告より長く生きられましたが、大麻所持の疑いで逮捕されました。

吉岡:山本さんの裁判は、生存権の問題と大麻取締法が真っ向から勝負するものでした。東京地裁での結審2週間前に亡くなりましたが、もし結審があったら、医療用大麻の位置づけが変わった可能性があります。
 医療大麻については、頭ごなしに「ノー」というのではなく、研究者の意見や、医療用大麻を許可する州が増えているアメリカの事例など、さまざまな状況を知る必要があると思います。

天外:アメリカで医療大麻がプロモートされているのは、日本との医療システムの違いがあります。アメリカは20年以上前から、医療システムが破たんしているのです。
 ガンになって診察を受けたくても何か月も待たされる状況で、代替療法が発達せざるをえず、医療麻薬が注目されるようになりました。日本の医療はそこまで破綻していないので、代替療法が注目されにくいという事情はあります。
 大麻取締法は、麻薬は危険だから禁止というのが表向きの理由ですが、麻は昔から身近にありましたよね。麻の服も麻縄も、身近にありました。ハンモックを作るのは藁の縄でいいけれど、ターザンごっこをするときは藁だと切れてしまうので、麻縄を使って遊んだものです。
 昔は、麻から麻薬を生成する技術がなかったのでしょうか。

吉岡:日本の麻は麻薬成分が少なく、いわゆる眩惑成分があるのは、日本の麻ではなくて、インド大麻と言われるものでした。
 大麻取締法は昭和23年に施行されましたが、ここで麻の栽培が制限された大きな理由は、戦時中に麻が軍事用に使われていたこと、そして、麻に変わる代替材料が増えてきたことによるかと思います。特に石油由来の製品ですね。
 このドキュメンタリーで、戦前の麻栽培を知る90歳代の方たちを探しあて、証言を得られたのはラッキーでした。

 

(会場から) 麻は塩より浄化力があるといいますが、そうでしょうか。

吉岡: そういわれています。昔は、魔よけのために、玄関に精麻(麻の茎を煮たのちに、余分な表皮を取り除き乾燥させたもの)を置く風習もありました。わりにある植物で、家をまもることが大切なのでしょう。 神社の注連縄も、藁が有名ですが、麻の注連縄も昔は随分ありました。 ただ、最近はビニール製の注連縄を掲げている神社が多くあるのは残念ですね。
 

(会場から)助産院で、お産の前に、おなかに麻を置いてください、といわれました。

吉岡:青森では、妊婦さんに麻ひもをプレゼントする神社があったそうです。 昔は、へその緒は麻ひもで結んだそうです。麻は、絹や綿より丈夫だからでしょう。いまはプラスチックのクリップで挟んでいるようですね。

天外:ぼくはシーツも枕カバーも麻にしているし、寝巻は、うさとの麻の服にしています。麻を身にまとうと、体がゆるんで、眠くなる。麻に浄化作用があるというのと、体がゆるむというのと、関係するかもしれません。

吉岡:「麻布はかたい」という人もいますが、麻は産地によって肌触りが違います。また、布にする工程で麻を柔らかくする工夫も昔はされていたようです。例えば、麻は雪にさらしたり、川にさらすことで、やわらかく、しなやかに、そして白くなる。先人の知恵ですね。

天外:後継者は育っているのでしょうか。

吉岡: 麻栽培の免許をもっている人は高齢化し、減る一方です。新しく許可を求めても、免許を取得するのはかなり難しいようです。
 大麻取締法のイメージが強い麻ですが、麻は暮らしのさまざまな場面で活用できる植物です。茎の部分は、衣料、紙、断熱材、エタノール燃料になり、麻の実は食品、油、化粧品、バイオ燃料などに利用でき、葉は衣料品や肥料、飼料、麻の炭からは火薬もできるため、アメリカをはじめ諸外国では麻の研究が進んでいます。
 白川郷の合掌造りの基礎材は、おがら(麻の茎の芯)を使っています。建て替えのとき、藁は捨てたり燃やしたり、堆肥にしますが、おがらは再利用できるのです。
 大量生産、大量消費という文化から、身近にあるもので暮らしを作っていく文化への転換がたいせつで、麻は、そのキーワードになるのではと思います。

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