陰山康成さんの講演――「高杉晋作の和魂と医療革命」
陰山康成さんの講演――「高杉晋作の和魂と医療革命」
陰山先生(医療法人癒合会高輪クリニック院長。国際和合医療学会常任理事。医
師と歯科医師のダブルライセンスドクター)は、2006年に高輪クリニックを
開業、5つのクリニックと健診センターを経営し、和合医療をキーワードに、遺
伝子にもとづくテーラーメード医療の確立を目指しています。先生の想いは、幕
末の動乱期を駆け抜けた高杉晋作の生涯とも重なります。多岐にわたるお話のご
く一部をご紹介します。(2015年6月10日、東京ウィメンズプラザ)
私は、東洋医療と西洋医学を統合する和合医療を目指していて、医療の哲学は、
欧米の哲学(「昼の哲学」)ではなく、和の哲学(「夜の哲学」)だと考えています。
そう思うようになったきっかけは、自分自身の体験があります。私は子どもの
ころ心身が強いほうでなく、何人ものお医者さんと関わってきました。7歳ごろ、
はっきりした原因がわからないのに、腹痛のため学校を休みがちになったことが
あります。1週間の検査入院ののち、「仮病じゃないか」と医者に言われたときは、
とんでもない先生だな、と思いました。メンタルが体に及ぼす影響を、私は実感し
ています。
子どものころ、私は自己流の内観をしていました。「自分はどこからきて、何者
で、どこにいくのか」・・・ずっと考えていると、三面鏡を開いたように自分の姿
がずっと先まで見えて、「自分は何者だ、と言っているおまえは何者だ、と言って
いるお前は何者だ・・・」と延々とつづき、さいごはポンと爆発したようになり、
恐怖感に襲われたものです。
小学校高学年から催眠術を学び始め、17歳でプロになり、大学は歯学部に進学
して、離島で臨床に従事しながら鍼灸治療を習得しました。そして、心身相関の発
想を生かす医療をつくろうと、35歳で医学部に入学したのです。子どものころの
腹痛の原因さえわからない医療に対して、革命を起こしたいと思いました。
去年、「医道五十三次クリニック」という健診センターを、品川に開院しました。
興味深いことに、開院のひと月前に知ったのですが、そこは「土蔵相模」の跡地で
した。土蔵相模は、高杉晋作と伊藤博文が攘夷を掲げ、イギリス公使館を焼きはら
う密談を繰り返した高級妓楼です。幕末の志士の中でも、私が最もその言動に共鳴
するのが高杉晋作なので、この偶然にはほんとうに驚きました。
高杉晋作は17歳のとき松下村塾に入学、攘夷を目指して、23歳で身分を問わ
ない奇兵隊を結成しました。24歳のとき、列強の連合艦隊による砲撃により、長
州藩滅亡寸前の危機には、全権を委任されて威風堂々と交渉に当たり、賠償請求も彦
島租借もはねつけました。破天荒な活躍により、倒幕の立役者になりましたが、大政
奉還を前にした27歳で、結核で亡くなりました。
高杉晋作の攘夷の思想は、私にとっては、欧米の哲学(見えるものを正義としエ
ビデンスを必須のものとする哲学)に覚える違和感と、重なるものがあります。
もちろん、西洋医療にもすばらしいところが多々あります。西洋医療も武器とし
て備えたうえで、東洋医療の技術や知識も復興し、医療に革命を起こしたい。その
ためには、日本人の遺伝子に組みこまれた、和魂が必要だと考えています。
高杉晋作の憂国の思いと重なりますが、日本経済はいま危機的な状況にあります。
2025年には、医療費の高騰から、社会保障給付金が140兆、150兆円に膨
れ上がり、デフォルトを起こすと推定されています。
医療費を削減するには、実学としての予防医療を充実させなくてはなりません。
厚生省はメタボリック健診の予算をつけましたが、医療費はかえって1,2倍に膨
れ上がりました。つまり、法定健診だけでは、医療費削減に役立たないのです。
西洋の一神教のイメージのように、人間と神を隔絶したものととらえて、「健康の
神は、外にある」として、病院に頼るようではだめです。和魂を思い出し、「健康の
神は、わが内にある」と気づき、自分の中の「健康の神」を輝かせる気概を、一人ひ
とりがもつべきではないでしょうか。
少子高齢化が進む中、私たちは健康寿命を延ばし、100歳をこえても現役で日本
を引っぱっていくようでなくてはなりません。そのためには、トラブルシューティン
グ型医療から、予防のための投資型医療に、切りかえていく必要があります。
医療には、1次、2次、3次と三段階あります。1次医療とは、運動、食事、メン
タルケアなどで、病気を予防すること。2次医療は、発症してしまった病気を治療す
ること。3次医療は、再発予防と、リハビリです。しかし、これから大切なのは、1
次医療のもっと前の、0次の予防医療です。
私は、内なる「健康の神」は、遺伝子に組み込まれている、と考えています。スピ
リチュアルな用語では、遺伝子は「カルマ」とも呼べるかもしれません。
遺伝子は、体をつくっているおおもとの設計図です。遺伝子に刻み込まれたほんの
わずかな違いで、人はそれぞれ、顔立ち、身長、なりやすい病気が決まります。遺伝
子のうち、人によって違う部分は、たった0,1パーセント。けれど、それは塩基配
列として30億、個性としては1000万の違いとなります。
2003年、ヒトゲノム計画が終了したのは、歴史的な快挙でした。10年かけて、
ひとりの人間の遺伝子をすべて解析したのです。そしていまは、15分あれば、いくつ
かの遺伝子の解析ができます。遺伝子検査をすると、将来かかりやすい病気や、自分の
体質がわかります。病気予防の参考になる遺伝子は1000万あり、中でも30万の遺
伝子については、すでにさまざまな検証がなされています。
なお、遺伝子検査で確実にわかるのが容貌であり、一本の毛髪からモンタージュ
写真をつくることができます。人工授精のケースでは、粘液から遺伝子を調べるこ
とで、容貌や学習能力を推定できます。
私のクリニックでは、8年前から遺伝子解析にもとづく医療をおこなっています。
検査は、綿棒を当てて口の粘膜細胞を摂取し、血液を採取するだけです。検体は専
門機関に送ります。結果は、検査項目の数によって違いますが、10日から1か月
でわかります。
遺伝子医療は究極の個人情報ですから、しっかりプロテクトしなくてはなりません。
また、病気の発現を回避できない遺伝子を見つけても、精神衛生上好ましくないだけ
なので、そのような診断はおこないません。いくつかの倫理的な問題はありますが、
遺伝子解析を予防医療に活用することには、大きなメリットがあります。
近い将来には、ある種の薬が処方されるには、遺伝子検査が必要になるでしょう。
ありとあらゆる薬の感受性は、遺伝子検査で調べることができます。
いまでも抗がん剤の一部は、遺伝子検査しなければ投薬されませんが、他にも、た
とえば、胃酸の分泌を抑制する薬の中には、遺伝子によって有効性が違うものもあります。通常の3分の1の量で効く人もいれば、まったく効かない人もいるのです。脳梗塞や
心筋梗塞の後に処方されるワーファリンは、ふつう一生のみつづけますが、遺伝子の
型によっては、3分の1の人にとって効果がありません。
また、サプリメントの摂取方法も、遺伝子を参考にするのが有効です。たとえば、
酸化ストレスは老化や万病の原因ですが、これを規定している遺伝子は、日本人に
は9つあり、それぞれの発現によって老け方は変わります。
コエンザイムQ10という物質が体内で分泌しにくい人たちは、老化が進みやす
いので、若いうちからサプリメントとしてコエンザイムQ10を摂取することが有
効です。しかし、その問題のない人がサプリメントを長期間とりつづけると、コエ
ンザイムQ10の分泌がとまってしまうという問題が起こります。
ある種の病気は、遺伝子によって、発症の可能性をある程度予見できます。
たとえば、掌蹠膿疱症にかかりやすい遺伝子をもつ人は、体内に慢性感染のある
ことが原因で、手や足に膿疱と呼ばれる皮疹ができることがあります。慢性感染は、
扁桃腺や、口の中の感染が多いので、2か月に1回、口の中を殺菌するとか、歯周
病の予防を頻繁にすることがお勧めです。
遺伝子検査は、歯科治療の領域でも役立ちます。たとえば、金属アレルギーが発
現しやすい人は、歯科治療では、口の中で電気が発生しにくいプラスチックやセラ
ミックを使うほうが望ましいでしょう。
歯科治療で使われる金属は、溶出するとイオン化して、口腔内で細菌とくっつい
て有機成分になります。アマルガムは水銀になり、ミュータント菌とくっつくとメ
チル水銀になって、消化器に吸収され、全身にまわって、脳や脂肪組織にたまります。
なお、日本人は遺伝的に、金属アレルギーをもつ人が多いです。花粉症の人12
0人を検査したら、98人が平均2種類以上の金属アレルギーでした。アレルギー
には5タイプあり、局所型のアレルギーはわかりやすいのですが、全身型のアレルギ
ーは、そうと気づきにくいものです。原因不明の皮膚の湿疹が、扁桃腺や口腔内の
慢性感染を治療し、歯に詰めた金属を除去することで、消えることもあります。
認知症については、アルツハイマー型が知られていますが、ルビー小体型認知症、
脳血管性認知症など、いくつかのタイプがあります。認知症の症状には、おもにア
リセプトが処方されますが、これが効くのはアルツハイマーの一部のタイプのみで、
他の認知症では症状が助長されることがわかっています。
アルツハイマー型認知症を予防するには、DHAやEPAの摂取と、適度な飲酒
が有効です。ただし、遺伝子的にお酒に弱い人は、定期的に飲酒していると、そう
でない人に比べて食道がんに3倍かかりやすくなります。
ところで、がんについては、遺伝子よりも、生活習慣の影響のほうが大きいです。
遺伝子には、DNAという一生かわらない遺伝子と、RNAという変化する遺伝子
の二種類があります。RNAは、食事、睡眠時間、心理状態など、さまざまな要素
で変わります。がんについては、DNAよりRNAの要素のほうが大きいのです。
とはいえ、遺伝子検査では、癌になりやすい体質かどうかを調べることはでき、
それを知れば、生活習慣を検討することができます。
たとえば、子宮体がんと舌がんは、一日に2杯以上コーヒーをのむと、かかりに
くくなります。しかし、一日にコーヒーを3杯以上のむ人は、すい臓がんになる確
率が2倍以上に上がります。遺伝子検査をして、「子宮体がん、舌がんになりやすく、
すい臓がんになりにくい」とわかったら、積極的にコーヒーをのむといいですし、
その反対なら、コーヒーを控えるといいでしょう。
遺伝子検査では、ミトコンドリアはすべて母系で引きつがれることから、20代
前の母親がどこから来たかを調べることができます。日本人には、縄文系の遺伝子
と弥生系の遺伝子があり、それらはかなり違います。遺伝子によって、容貌、体格、
気質などが決まるので、それを知って、後天的な努力でマイナスを補い、プラスは
積極的に伸ばしていくことは、よりよい人生のために大切ではないかと思います。
医学は、臓器、組織、分子を研究してきて、再生医療や遺伝子治療という新たな
フィールドに進んでいます。そして将来的に、もっとミクロの領域、量子の世界が
解明されるようになったら、メンタリティ、スピリチュアリティの世界に入っていく
でしょう。
現代医学では、健康を1階が肉体、2階がメンタリティ、3階がスピリチュア
リティという階層でとらえていますが、私は、1階はスピリチュアリティ、2階
はメンタリティ、3階が肉体である、ととらえています。肉体が大きく動くとき
は、じつは根幹にあるスピリチュアリティが揺れている、ということです。
量子に意識があり、互いに影響を与え合っていることがわかったら、健康の根
幹をなす、機軸としてのスピリチュアリティが再評価されるのではないか、と思
います。